9月20日・23日 批評会

「灯火親しむべし」

 

と韓愈は詠んでいますが、文士たちにとって秋は執筆に読書に(ときどきは勉強に)と研鑽の季節であるようです。批評会の前にも、アイディアに煮詰まっている、続きがなかなか書けないなどと聞こえてきます。

 

三文文士たちの部屋の灯火が落ちるのは、毎晩遅く。

嫌な秋の夜長ではありますが、締め切りまで頑張りましょう。

 

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こんにちは。例にもれずやはり執筆に苦労している三文文士の一人、遥弥生です。

遅ればせながら、9月20日、23日の批評会の様子についてお伝えします。

 

合宿批評会の講評も滞っておりますが、こちらも時間のあるときにゆっくり更新していきます。

気長にお待ちいただけると幸いです。

 

それでは作品紹介、参りましょう。

 

 

1.つ次郎「メモリー」

「大学に入ってから書き始めた」「自分でも不満な点はいくつかありますが……」

と、作者さんの言葉数少ないコメントでスタートした批評会。

 

まず最初に挙げられたのは「台詞回しのうまさ」という点でした。

「作品の雰囲気に合ったセリフが用いられていて良い」

「軽快なやり取りのシーンとシリアスなシーンでの台詞の印象の違いがはっきり出ていて良い」

「軽快な会話が魅力」

など、冒頭のコミカルなやりとりから終盤のシリアスな語りにいたるまで、

終止場面を意識した台詞が選択されていることが高く評価されていました。

台詞の独特な気だるさや、七五調につながるリズムを評価する人もいました。

 

この延長線上に、作品全体が「漫画的」だという意見がちらほら。

「要素小説だ」という意見も聞かれました。

全体を通じてデフォルメされたようなキャラクターと雰囲気をもたせた台詞回しが、そのような印象につながっていたようです。

 

一方で、

「感情描写が平坦」

「五感の働きが弱い」

など、そうした要素重視の構成に起因する問題点への言及も。

キャラクターの書き分けが甘いという意見も聞かれました。

シーンを視覚情報で提示できない小説では、やはりそのような部分に配慮する必要があったかもしれません。

 

 

勿論、ストーリーについての言及もありました。

「この甘酸っぱさがいい」「エモい」など、主人公たちの関係性が次第に深まっていく展開を端的に称賛するコメントが目立ちました。

 

作品全体の展開を支えているとして、とくに言及があったのは前半部のコミカルなシーンでした。

「前半と後半のギャップが作品全体の魅力を引き立てている」

「気だるさのなかに軽快さ、読みやすさがある」など、全体のバランスを整えるうえで役立っていると評価されていました。

 

一方で、後半については、

「どんでん返しの機能が理解できない」等、蛇足な部分があったのではないかと厳しい見方をする人も。

作品としての雰囲気を重視しているせいでしょうか、機能的でない展開についての指摘が目立ちました。

 

全体的には、雰囲気をうまくとらえた点について高く評価されていた一方で、

小説としての表現力や展開についてはなお伸びしろがあるという評価に落ち着いていました。

作者さんも「改善できる点は改善していきたい」と意気込んでいました。

 

質問事項は「初めて小説を書いたのはいつ?」というもの。

小学生のころ、という人から「ついこないだ」という人までさまざまでした。

動機も「学校の課題だった」という方から「小説を読んでもらっていた国語の先生が好きだった」という不純なものまで。

肝心の作者さんはというと「大学生になってから」とのことでしたが、それにしてはお上手ですねというのが大体の方々の感想でした。

 

2.遥弥生「そして成虫になる」

言わずもがな、私、遥弥生の作品でございます。

「自分でも批評しようと思えばできるけど、それをやっちゃうとコメントがもらえなそうなので」などという作者の言い訳を合図に、批評が開始されました。

 

ありがたくも高い評価をいただいたのは、作品の根底にある哲学でした。

「自分の中にある決めつけ、レッテル貼りを暴かれる思いがする」

「尊敬する人間の汚点を見つけてしまったときの痛みがうまく描かれている」

等、もったいないほど素敵なコメントをいくつもいただきました。

作者の人間性がよく表れているという評価も多かったです(ここは書き手としては複雑でもありましたが……)。

 

それを支えるものとして、キャラクターとその関係性の働きがはっきり定まっているという分析がなされましたが、

一方でこれを裏返すものとして、「展開がやや結果に向いすぎている」という批判も。

いわゆるご都合主義的な部分への指摘が集まった形です。

 

また、作品の雰囲気に対しては「繊細」「綺麗」といった評価をいただきました。

ただしここにも、雰囲気を重視するあまり、ラストシーンや、一部のキャラクターの働きに問題が生じたのではないかという分析が。

これもまたある種のご都合主義的展開の問題点と言えるでしょう。

 

描写についてもやはり「美しい」という評価がある一方で、要所要所で用いられているメタファーについて「厳密に用いられていない」という批判もありました。

またそもそも映像としてわかりにくいシーンがあったという方も。ややわかりにくさが目立つシーンもあったようです。

 

全体的には、基本的なシーンの雰囲気や役割についてはうまくこなせているし読むべき魅力もあるにはあるが、細かい点でまだまだ粗が目立つといったところでしょうか。

 

作者からは「罪を背負って生きていくことの重みを描きたかった」と価値観的な部分に言及したのち、描写や展開における問題点の根底に執筆のスタイルがあるのではないかという分析をいたしました。

 

質問事項については、「オリジナリティを演出する手法」「アマチュア小説の書き手にとっての意義」を提示しました。

 

第一の問題については「異化効果」というキーワードを中心に、自然から乖離した歪さをどのように演出するかという点に多く言及がありました。

逆説的ですが、「縛りをかけた方がオリジナリティが出る」という見方も。作者としても、「作品の特異性は自分の外側からやってくるのではないか」とコメントいたしました。

 

第二の問題については「そもそも小説に価値なんてない」という過激な分析もありつつ、

「自分の書いたものを誰かに読んでもらえるシステム」について、素朴ながらも基本的なところに立ち返る意見が多くみられました。

作者も「自分の『過去』を今の自分を知っている人間に読んでもらえること」の価値についてお話させていただきました。

 

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二作品の批評とも、雰囲気の演出についての言及がありました。

 

小説のページは白一色ですから、風景、心情、そういったものの色彩を文章だけで演出しなければなりません。

 

筋書きのうまさ、基礎的な描写力は作品を評価するうえで大前提となる部分ですが、

それを踏まえたうえで、シーンの雰囲気にあった文章を創り上げる実力の重要さがよく理解できる回だったかなと思います。

 

 

次回は9月27日・30日回のレポートをお届けいたします。