4月1日 批評会

ちっす ちっす。「平成の怪物 」こと(自称)二年編集の宍戸です。バ先やらサークルやら各共同体で次々と下の世代が入ってきたり、年号が変わったり、生え際が薄くなったりと(当社比)すっか り老いてしまった気持ちでいっぱいですが、まだ十代、 新年度のスタートダッシュ を若々しく爽やかに切れるよう頑張ります(タイプ しながら無理ゲーじゃんって思ってしまった自分がいる)。

 

それでは、 4月1日(月)の批評会議事録を公開してゆくぅ……

 

 

注意!; 本項を初めてご覧になる方、 先に作品をお読みになっていっていただくと、 批評の内容を理解しやすくなると存じます。ページ下部に作品 PDF へのリンクを掲載 いたします。

 

1.大浦埼都「未来知」 

作者 からの連絡事項

「この作品の主人公はどんな人だと思いましたか?」 質問事項はじめ、読んで感じたところを教えてください。

批評

・面白かった。高尚な哲学小説のふりしてやることyoutuber。悩みとか難しいこととかを抽象化して考えるのってやりがちだよなって思った。批評する上での印象としては良くも悪くも全体的に書きたいことのキメラみたいになっているという感じ。良いこととしては抽象的な箇所がよくわからん人でも具体的なネタでゲラゲラ笑えるという点。一方、正直難解すぎて理解できない箇所がいくつかあった。

・途中のエピソードであるくじ引きの話が面白かった。個数を計算するなど、妙に冷静なキャラクターが面白い。残念な点としては、最初の段落がやっぱり少し長いので読むのに躊躇するところ。また、2ページ目の最後の段落の文など、文法的な繋がりに違和感を覚える箇所がいくつかあった。一つの文や段落が長いと間違いも犯しやすいし、繰り返しの表現が多くなって言葉遣いもくどくなってしまう。

・主人公は普通のいい人。「まともな倫理観」のもとで育った人物なのだろうと思う。そこで、何かしなくてはと焦る人物に、何もしなくてよいとの答えを突き付けるのは、前後の変化という視点で見たときに、成長に乏しいのではないかとも思った。終始「普通のいいひと」で、正直な処特に変化しなかったという印象があった。

・表現の観点では、最後の段落の列挙的な文がとても面白かった。人生観に対していろいろな角度から見ているようで、根底の「甘酸っぱい」という感覚がブレていないあたりに好印象。

・作品が長い分、長い段落で構成されているところにはデメリットもあるけど、本作の様に主人公の思索を連綿と書き連ねていくタイプの作品では、むしろ文、段落が長い方が力強さがあっていいのではないか。

・主人公地震が作中の経験を通じて変化する瞬間の葛藤をうまく描いていたと思う。長い文が、葛藤の様相にうまくかみ合っていて作品の雰囲気に合っていた。おみくじに書かれていたメッセージによって、長々と列挙されてきた葛藤が一行一行でゆっくりと解決されていくことで、主人公が「正しく変化していく」瞬間がとらえられていたように感じる。「なのだ」と「なんだ」の混在などに深読みをしてしまったほど。

・[Youtuber]という前評者による喩えの印象が強いせいか、ちょっと変わっている感じがする。ただ、計算とか変なことに拘っているなど、賢い部分が目立つところもありキャラクターに矛盾を感じる。具体的エピソードとしておみくじの話を出すのが少し急でぶっ飛んでいる感じがしなくもない。抽象的な思考についてはもう少し短めに記述するといいと思う。

・主人公は「純粋だけどひねくれてる変わり者」だと思った。突飛なエピソードこそあれ、全体的には割と読みやすかったなと思った。

・タイトルは「予言」を意識したものになっている? 何か深い意味はあるのですか。

・おみくじを全部引くのを作者さんは経験済み?(一同爆笑)

作者からの感想

 新歓号出してねと言われて、合宿でお御籤を引いたことをきっかけに書いた。そこに、この一年で学んだ哲学を反映させたくてこのような作品になった。タイトル自体には意味がないが、「ミクジ」という読みをねらったつもりだった。おみくじは全部引いたことは無いが、興味はある。

 

 

2.遥如月「相棒はヒットマン」(編者注;ぼくです!)

作者からの連絡事項

「読んでて『ここは物語の展開に跳躍があるだろ』と思った箇所があったら言ってください」ほか、物を視点主とする作品を書く上で特有の難しさやコツなどがあったら教えてください。この作品は、Twitterでお題を募集し、「ネクタイ」をテーマとする作品として発表した秀作になります。普段は「遥弥生」名義で作品を執筆しております。

批評

・特に飛躍している箇所はなかったように感じる。ただ、ミスリードに拠りすぎて若干文章が理解しづらい箇所があった。特に二段落目の冒頭が巧く解釈できず、この段階が回想であることを理解できなかった。ネタとしては、おじさんがネクタイをハチマキにしたところが面白かった。

・面白かった。展開の引っかかりはなかったように思う。叙述トリックにありがちな、伏線が回収される鮮やかさがきちんと出ていた。視点主の正体がネクタイであると「ネクタイハチマキ」によって最初に説明されているのがなんか可笑しかった。

・最初から分かりやすいヒント(伏線)がきちんと出されていた。光と影のコントラストと、タイトル回収がかっこいいと思った。読みづらいところも特になかった。

・直前までトリックに気付かなかったけど「おしゃれ着モード」で気づいた。擬人化小説はほとんど初めて読んだけど「こういう小説もありか」という感動があった。状況と回想の往来が若干わかりづらかった。特に最初。例えば、段落下げなどを利用して視覚的、構造的区別をするのもありだと思う。

・展開の飛躍は感じなかった。物を一人称として書くことと、物を人であるかのように丁寧に扱う登場人物の性格が上手くリンクしていた。

・展開の飛躍はなかった。視点主は普通の人間だと思っていたので、冒頭の「暗い」という描写はよくわからなかった。全体的に面白く、擬人化への流れも自然に入り込めた。

・面白かったです。二ページ目から視点主を人間として見なすと違和感があることに気づいた。「おしゃれ着モード」のところは良い表現だと思った。全体的に読みづらさはなかった。

・最後の感動にぶつかる直前に「ヒットマン」という語を出すのはタイトル回収に向かう上でもったいないと思う。

作者からの感想

習作の名目で書いたので、練習のつもりでいろいろと技巧上の実験をしてみたつもりだったが、そのような作品に対して新入生を中心とした嬉しいコメントがいただけるのはとっても嬉しい。終盤への繋がりが急すぎるかと気にしていたが、作品の雰囲気のヴォルテージを挙げていれば読者が意識しなくても済むのだなと感じた。逆に、冒頭の繋がりの悪さは盲点だった。読書中のテンションが上がりきらないうちに、こういうミスを犯すのは致命的だなと思った。

 

 

 次回更新は4月9日(火)夜。5日(金)および8日(月)の批評会議事録になります。

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大浦埼都「未来知」
「未来知」大浦埼都.pdf
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遥如月「相棒はヒットマン」
「相棒はヒットマン」遥如月.pdf
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