批評会(10月26日)

和泉副支部長の高橋です。珍しくわたしが活動報告を行います。

 

おととい行った批評会では、2012年夏号より以下の二作品が批評対象となりました。

作品:The Steamators
作者:坂本晴人
質問事項:あなたの心に一番残ったルビ(振り仮名)は何でしたか?

作品:抜け道
作者:マッキンリー三村又吉
質問事項:表現にしつこさはなかったか

参加人数は……15人に達しないぐらいだったでしょうか?ここ最近ではわりとにぎやかな方だった気がします。男性率100%でしたけど。


坂本晴人さんの「The Steamators」の批評。

まず、ルビ以外の要素では次のような批評がありました。
・視点の切り替えに際して、どの蒸気闘士(スチーミエイター)に視点が移ったのか分かりにくい箇所がある。
・蒸気闘士の操縦方法がイメージしづらい。
・操縦の描写はいっそ無くした方が万人に読みやすい。
・蒸気闘士の周囲の状況(地形、風景など)が描写不足。
・オーストリア機『乗手』が他の蒸気闘士にくらべ没個性。


中でも操縦方法の分かりにくさについては複数の評者から指摘がありました。

また、文体に関しては、
・詩のようなリズム感があり、読み心地がよい。
と、評価する声が多かったようです。さらに、この詩性をより特化させるために韻を意識してもよかったのでは、との指摘もありました。

質問事項にもなっているルビ(振り仮名)に関しては多くの意見が出ました。中にはルビという存在そのものへの掘り下げた分析を述べる評者もいました。

批評会全体として、あえてズレた意味のルビを振ったときに生じる“ひねり”を慶賀する向きがあったようです。

作品中に登場した多量のルビの中で、格好いい!面白い!基本だよね!などと賞賛されたのは以下のようなものです。
「協調するヨーロッパ(ヨーロッパ・コンサート)」
「戦争(さつりく)」
「変速機構(トランスミッション)」
「有機体(システム)」
「血肉(からだ)」
「諸悪射抜きたる義士の弓(シャーウッド・ボウ)」
「全蒸気、放射!(オールスチームロックンロール)」

ルビにまつわる批評としては、
・ルビを通して各国の個性がよく立ち現れている。
・終盤、意表をついたルビの登場が少なくなり、また、ルビ自体の登場が少なくなり、新鮮さがなくなる。
・ルビの振り方に対するスタンス(複数回出てくる語には何度も同じルビを振るのかなど)がハッキリしていない。
などがありました。


マッキンリー三村又吉さんの「抜け道」の批評。

主な批評としては、
・小話的な面白みがある。落語的で、余韻のある終わり方。
・読後もう一度読み返しても面白い。正二少年の心情について想像をかきたてられる。
・ホラー小説として見れば、不気味さが足りない。
・“怖さ”が少年の主観的な怖さに終始してしまっている。読者みなが怖いと思えるホラーとしての地力が必要。
・王道すぎて、似た作品がありそう。
などがありました。

複数の評者が「小話(小噺/小咄)」という印象をもってこの作品を捉えていたようです。

また、語り手である老人の口調について多くの指摘が聞かれました。次のようなものです。
・子ども(小学一年程度?)に語りかけるにしては難しい言葉がしばしば使われていて不自然。
・他人行事な口調になっている箇所がある。「~かね?」
・口調が女性的で、読み始めた当初、おじいさんでありながらおばあさんのように感じてしまう。

 

中でも、使っている言葉が難しすぎるとの指摘は多く、いくつかの箇所が例として挙げられました。

しかし、
・(老人が彼自身の語彙で語っていると考えれば、)言葉の難しさはむしろこれぐらいでよい。
との意見もありました。

質問事項に対しては、
・しつこさは全くない
という判断でほとんどどの評者も一致していたようです。この作品は口語的な文体であるから、むしろしつこくする方が難しいのでは?との声も聞かれました。

全体として、基本的にはとても面白いという好意的な意見でまとまっていました。