和訳英訳のテイストの違い2 (坂本晴人)

さて、一回目のアレの続きです。

日本語(訳語)のほうが原語より深い意味を込められる場合とは

いったいどういう場合なのか?

それの一番わかりやすく、そして有名な例だと私が思うのは

「スター・ウォーズ エピソードV 帝国の逆襲 (ルーカスフィルム、1980年)」

だと思っています。

 

ざっとあらすじを書くと、

いろいろあった結果ハン・ソロはレイア姫+αと帝国から逃げていたのですが、

しかし逃げた先で親友に裏切られ、ハン・ソロは捕らえられた上に、

カーボナイト冷凍(冷凍保存による剥製状態化)に掛けられてしまいます。

ハンが冷凍される直前、ようやくレイア姫は自分の気持ちに素直になり、

彼に愛の告白をします。そのシーンの原文がこれです。

 

Leia: I love you.

   (愛してます)

Han: I know.

   (知ってる)

 

と、まあ、随分と華麗な台詞回しを見せてくれるものです。

脚本ではハンの台詞は"I love you too."と月並みなものだったそうですが、

ハンを演じたハリソン・フォードがハンのイメージに合わせて

台詞変更を申し出たらしいです。

 

しかしそれはともかく、これと私が比較したいのは、

この映画のこのシーンの吹替版なのです。

どの吹替かは残念ながら特定できなかったのですが、

確かに台詞はこうだったことは覚えています。

 

レイア「愛してます」

ハン「知ってたさ」

 

ここの"I know"を「知ってたさ」と訳すところに私は感激しました。

「愛してるなんてそんな当然のこと、何をいまさら」といった感じの

ハン・ソロというキャラクターがここに凝縮されてると思います。

 

しかし直訳して「知ってるさ」と訳してしまっていたなら、

それはおそらく「知ってたさ」よりも

少ないイメージしか包括できなかったろうと私は思います。

ここはうまく言語化できない、非常に概念じみた話になってしまうのですが、

とにかくこのシーンにおいては原文の"I know."よりも、

日本語の「知ってたさ」の方がはるかに物語に深みを与える役割を

果たすことができたのだろうと思います。

 

ところでこの「愛してます」に対する「知ってたさ」

一回くらい使ってみたいですよね!

ただし、

まず相手もこのシーンを知っているという前提が必要なのですがね……。

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コメント: 1
  • #1

    yosi (火曜日, 30 6月 2020 06:54)

    随分前にアップされていたのですね。
    私も同感です。
    以前、別のサイトでも坂本さんと同じコメントをしたこともあります。
    この訳は確か戸田奈津子さんの翻訳だったような。。
    何度も再放送してますが、残念ながら「知ってるよ」という翻訳です。
    やはり、翻訳者のセンスやテクニックで作品がガラリと変わりますね。
    たった一言でも。